ヘリコプターのデッドマンズカーブ【高度/速度線図(H/V線図)】

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ヘリコプターには地面付近において、できるだけ避けるべき飛行領域があります。

その回避エリアは高度と速度の組み合わせで決まり、それを表した図のことを「高度/速度線図(H/V線図)」といい、ヘリコプターの飛行規程には必ず載っています。

そしてこの「高度/速度線図(H/V線図)」の別名を「デッドマンズカーブ」といいます。

ヘリコプターを操縦するパイロットは、必ずこのデッドマンズカーブを頭に入れながら操縦しなければありません。

この記事を読んでデッドマンズカーブについての理解を深めていきましょう。

目次

高度/速度線図とは?

高度/速度線図を簡単に定義するとすれば以下のような説明になります。

高度/速度線図とは?

ヘリコプターが離陸、着陸もしくは地面付近での操作中にエンジンが故障した場合に、安全に着陸できる対地高度と速度の組み合わせを表したもの。

※単発機であればオートローテーション着陸
 多発機であればOEI(1エンジン非稼働)での着陸

各ヘリコプターの飛行規程には以下のような図が必ず載っています。

参考にロビンソン社のR44の高度/速度線図を見てみましょう。

R44の高度/速度包囲線図
出典:Helicopter Flying Handbook

図の一番上に記載されているように、影になっている部分での運航はできるだけ避けるべきです。

影になっている対地高度と速度の組み合わせで飛行中にエンジンが故障してしまうと、安全に着陸できる可能性は極めて低くなります。

この影になっている領域をヘリコプターの分野では「デッドマンズカーブ」と呼んでいます。直線ではなく曲線になっていますよね。

逆に影になっていない対地高度と速度の組み合わせで飛行中にエンジンが故障しても、パイロットが適切に対処すればヘリコプターは安全に着陸できる可能性があります。

しかし、この高度/速度線図は安全に着陸できることを保証するものではありません。

影の領域の外を飛んでいても、不時着可能な場所が無かったりパイロットの操作が不適切であれば安全に着陸することは難しくなってしまいます。

パイロットととしては、特定の高度と速度の組み合わせでの飛行時間をできるだけ短くし、少しでもエンジン故障による墜落のリスクを下げる努力をしなければなりません。

各領域の危険要素

高度/速度線図には影の領域が2つありますがそれぞれの危険要素を解説していきます。

ロビンソンR44のデッドマンズカーブをA、Bとして、なぜこれらの高度と速度の組み合わせが危険なのかみていきましょう。

R44の高度/速度包囲線図
出典:Helicopter Flying Handbook

A:低速低高度

図の左側はオートローテーションを正常に実施できない領域を表しています。

低速低高度で飛行中のヘリコプターは位置エネルギー(高度)も運動エネルギー(速度)も十分に持っていません。

オートローテーション着陸は、正常なローター回転数を維持し接地直前のフレア操作で衝撃を和らげ接地することです。

オートローテーション着陸を成功させるためには、ある程度の前進速度と降下率が必要です。

例えばヘリコプターが400ft/0kt(OGEホバリング)の状態だったとします。

この状態でエンジンが故障した場合、パイロットはローター回転数を維持するためにコレクティブピッチレバーを下げます。

そして前進速度を得るためにサイクリックスティックを前方に操作しますが、おそらくオートローテーション着陸に必要な対気速度を得る前に地面に到達してしまいます。

もしくは無理に対気速度を得ようとして降下率が大きくなり過ぎてしまい、フレアで降下を止めきれない可能性もあります。

これが400ft/30ktであれば結果は変わると思います。

私も実際にシュミレーターで実践しましたが、この領域からオートローテーション着陸を成功させることはできませんでした。

B:高速低高度

図の右下は速度はありますが低高度の領域です。この図では25ft以下がデッドマンズカーブになっています。

地表付近でのエンジン故障はパイロットの対処が間に合わない可能性があります。

またテールローターの接触の危険性があるため、十分なフレア操作をすることができない場合があります。

フレア操作を十分にできないと機体の前進速度と降下率を止められず、機体の損傷につながります。

この高速低高度のデッドマンズカーブは機種によってはない場合もあります。

デッドマンズカーブの中は飛んではいけないのか?

デッドマンズカーブの中は飛んではいけない訳ではありません。

むしろヘリコプターの任務はデッドマンズカーブの領域で行うことが多いです。

特に物資輸送や人命救助などの吊り下げを伴う任務は常にリスクにさらされている状態と言えます。

それだけではなく、狭いヘリポートや場外離着陸場での離着陸時は、障害物を避けるために一時的にデッドマンズカーブの範囲内に入ることはよくあります。

デッドマンズカーブを避けても障害物を避けられなければ何も意味がありませんからね。

デッドマンズカーブを避けられる状況であれば避けるべきですが、リスクの高い状態で飛行しなければならない場面も多々あります。

大切なのは「リスクの高い状態で飛行している」と認識し、少しでもデッドマンズカーブ内での飛行時間を短くするように考えることだと思います。

何も考えずにデッドマンズカーブに入るのは非常に危険です。

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