日本人にとって「指差呼称」はとても身近なものではないでしょうか?
日本で電車に乗ったことがある人であれば車掌さんがやっている姿をイメージできると思います。
白い手袋をした手で前方を指して「出発進行!」と言う姿は日本の少年が例外なく憧れます。かっこいいですよね。
多くの少年がカッコつけて真似していましたが、あれはちゃんとした安全確認の動作であり明確な意味があります。
今回はそんな「指差呼称」について見ていきましょう。
指差呼称には長い歴史がある

指差呼称は実は日本発祥のものです。
その起源は今から100年以上も前、当時の日本国有鉄道(現:JR)の蒸気機関車のある運転手が目が悪かったため、同乗している機関助手に信号の色を毎回確認していました。
その様子を見た日本国有鉄道の偉い人は、その運転手が目が悪いことも知らず「これはすばらいいことだ、ルール化しよう!」と言って広まっていったと言われています。
100年以上たった今でも安全を確認する動作として受け継がれており、日本の安全でスムーズな鉄道運行を支えています。
また日本だけでなく、台湾や韓国の鉄道会社やニューヨーク地下鉄もこの指差呼称を導入しています。
今では鉄道業界だけでなく、自動車や製造、建設、船舶、航空、医療などといった様々な分野で取り入れられており、効果的な安全確認の手段として多くの人に浸透しています。
指差呼称で本当にエラーが減る?
私自身も昔は「指差呼称で本当にエラーが減るのか?」と思っていました。
指差呼称の力はすでに科学的に証明されていますがこう言ってもまだ疑い深いあなたのために実験データがあります。
1994年に鉄道総合技術研究所が指差呼称に関する実験を行いました。
内容は簡単で被験者の前にはモニターと5色のボタンが置かれており、モニターに出てきた色と同じ色のボタンを押すというものです。
タスクをやるにあたって「指差呼称を行う」、「呼称のみ行う」、「指差のみ行う」、「何もしない」の4パターンに分けエラー率がどのように変わるのかを実験し結果は以下のようになりました。

指差呼称を行った場合が最もエラーが少なく、何もしなかった時と比較するとおよそ6分の1にまで減っています。言い換えるとおよそ85%エラーが減っていることになります。
指差のみや呼称のみでも何もしなかっと時と比べて半分以上はエラーの数が減っています。
また脳科学の観点でも研究が進んでおり、2010年には広島大学大学院保健学研究科による研究論文が発表されました。
この論文によると指差呼称をすると判断力や注意力をつかさどる脳の前頭葉が活性化することが明らかになりました。
実験データや研究成果から見ても「指差呼称」はエラーを減らすための非常に有効な手段であることが分かります。
指差呼称の使い方
エラーをしないように日々頑張っている私たちパイロットはどのように指差呼称を取り入れるべきでしょうか。
航空機の運航には指差呼称は非常に有効です。
飛行前の点検でドアのロックを確認するのであればそこを指差して「Door locked!」やピトーカバーの取り外しであればピトー管を指差して「Pitot tube cover removed!」、また「Fuel cap closed and locked!」などと言うことができます。
フライト中であれば手を離すことができない場面もあるため指差しは必ずしも必要ではありません。しかし自分の目で見てそれを呼称することができます。
例えば、燃料量であったり、ホバリングした時のトルクの値を呼称したり、高度計を見てその時の高度や上昇や降下中であればレベルオフする高度を言うこともできます。
他にも飛行場以外の場所へ着陸する際は、障害物の状況や風向風速などを確認しそれを呼称することができます。
実際に声を出すことによって自分に対して意識づけができ、状況をより詳細に認識することができます。
また記憶にも残りやすく自分が行った動作や確認事項を忘れにくいため無駄な心配が少なくなります。
タスクが集中する場面や自分が余裕がないと感じている時にこそ指差呼称を実践するべきです。
状況認識がより明確になり自分のやるべきことが不思議と見えてくるはずです。その結果エラーが減り安全な飛行が達成されます。
指差呼称は人間の感覚を複合させること
指差呼称がなぜこんなにも人間のエラーを減らせるのかというと、それは人間の様々な感覚を複合させて行う動作だからです。
目で対象物を見て、手を動かして対象物を指すもしくはタスクを完了する、それを声に出して耳で聞いて確認する、そして最後に脳がタスク完了を認識します。
このように指を差して声に出すだけの簡単な動作ですが、人間のいろんな感覚が同時に働いているんですね。
これが指差呼称の本当の力です。
これにより研究でも明らかになったように、脳の前頭葉が活性化し注意力や判断力が向上し結果的にエラーを起こしにくくなります。
人間はエラーをする生き物でそれを0にすることは不可能です。
しかし、エラーの発生率を劇的に減らせる方法が「指差呼称」です。
エラーによる悲惨な事故を防ぐために積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。